「最近ちょっと疲れやすい」「立ちくらみが増えたかも」「寝てもなんとなくだるい」――そんな不調を感じて病院で血液検査を受けたのに、「異常はありません」と言われたことはありませんか?
もしかするとそれ、“隠れ貧血”かもしれません。鉄分がじわじわと減っている途中の段階では、一般的な血液検査では異常とされないこともあるんです。
この記事では、鉄分不足がどうやって進んでいくのか、なぜ通常の検査では見逃されがちなのか、そして貧血が起こる仕組みについて、図や実例を交えてわかりやすくご紹介していきます。
読み終えるころには、「隠れ貧血」という見えにくいリスクを自分自身で見抜く力がついているはず。必要な検査や生活習慣の見直しにも前向きに取り組めるようになります。なんとなく感じていた不調に向き合う第一歩として、ぜひ参考にしてください。
貧血とは?
貧血というのは、血液の中にある赤血球やヘモグロビンの量が少なくなり、体に十分な酸素が行き届かなくなっている状態を指します。イメージとしては、血液が“薄く”なってしまっているようなものです。
ただし、「貧血」はあくまで体の状態を表している言葉で、病名そのものではありません。貧血になる背景にはいくつかの原因があり、それぞれに種類や対処法が異なります。

最も多い原因が鉄分不足
数ある貧血の中でも、いちばん多いのが「鉄欠乏性貧血」です。これは、赤血球の材料でもあるヘモグロビンを作るための鉄が足りなくなることで起こります。
鉄不足の主な原因は2つ
原因① 食事からの鉄分が足りていない
鉄はもともと吸収率が低いうえに、特に月経のある女性や成長期の子ども・若者は、食事だけで必要量をまかなうのが難しいとされています。

原因② 出血による鉄の消耗
出血によって体から鉄が出ていってしまうことも、鉄不足の大きな要因です。
具体的には、以下のような病気や症状が関係していることがあります。
- 子宮筋腫・子宮内膜症・子宮がん
- 月経異常(量が多い・期間が長いなど)
- 胃や十二指腸の潰瘍・胃がん
- 大腸ポリープ・大腸がん・痔 など
貧血の症状の強さ
「赤血球の数が少ない=つらい症状が出る」と思いがちですが、実際にはそうとも限りません。症状の強さは、貧血がどれくらいのスピードで進んだかによっても変わります。
原因によって異なる進行
鉄不足による貧血は、じわじわと少しずつ進行していくことが多く、気づきにくいのが特徴です。思春期から少しずつ始まり、気がつけば40代ごろに症状が出てくる、というケースも珍しくありません。
一方で、消化器の病気や婦人科系の疾患などで急に出血が起きた場合は、貧血の進み方も急になることがあります。
鉄の吸収と貯蔵の仕組み
私たちの体に取り込まれた鉄は、小腸の粘膜から吸収されて、たんぱく質の助けを借りながら全身へ運ばれます。
このとき、鉄の輸送や貯蔵に関わるたんぱく質がいくつかあります。
- トランスフェリン(鉄を運ぶ役割)
- フェリチン(鉄をためておく役割)
- セルロプラスミン(酸化のサポート)
体内の鉄のうち、約70%は赤血球のヘモグロビンとして、25%は貯蔵鉄として肝臓や脾臓に、残りの5%は筋肉や皮膚などに存在しています。
貧血の進行の仕組み
鉄が不足していくと、体の中では少しずつ段階を踏んで“鉄の貯金”が減っていきます。
鉄欠乏性貧血の進み方は、こんな流れです。
- フェリチンが減る(貯蔵鉄がなくなってきた段階)
- 血清鉄が減る(運んでいる鉄まで不足)
- ヘモグロビンが減る(赤血球にも影響が出る)
つまり、血液検査で「異常なし」と出ていたとしても、体の中ではすでに鉄が足りなくなりはじめていることがあるんです。
貧血の改善は長期的に
鉄剤を飲んで血液検査の数値が回復すると、それで一安心…と思ってしまいがちですが、実はここからが大切な期間です。
体に鉄をたくわえるには時間がかかるため、症状が落ち着いても 少なくとも6か月程度は鉄の補給を続けること が大切だとされています。
鉄剤を飲んで貧血がよくなり、血液検査所見が正常に戻ったら、からっぽになった貯蔵鉄を補うために、さらに6カ月くらい鉄剤の服用を続けます。貯蔵鉄を十分に補っておかないと、すぐに鉄欠乏状態に逆戻りしてしまいます。
― 『貧血と血液の病気』浦部晶夫著(インターメディカ)
貯蔵鉄がしっかり回復しないままだと、またすぐに鉄不足に戻ってしまうこともあります。焦らず、じっくり体の内側から整えていくことが再発防止にもつながります。
鉄不足セルフチェックリスト
次の項目のうち、3つ以上あてはまる場合は、隠れ貧血の可能性があるかもしれません。もちろん、ひとつでも気になるものがあれば、フェリチンなど鉄に関する詳しい検査を受けてみるのがおすすめです。
また、食事や生活習慣の見直しは今日からできる大切なケア。まずは気軽にチェックしてみましょう。
- 疲れやすい、朝からだるさを感じる
- 立ちくらみや息切れがよくある
- 氷を食べたくなることがある
- 生理の量が多い、または期間が長め
- 髪や肌が乾燥しがち
- イライラしやすい、自分でも気になる
フェリチン検査の受け方と注意点
フェリチンや血清鉄などの詳しい検査は、一般的な健康診断では含まれていないことが多いです。そのため、希望する場合は、以下のような方法で受けることができます。
- 自費検査として追加を依頼する
- 内科や婦人科で個別に相談する
たとえば、「鉄の状態を詳しく知りたいので、フェリチン検査もお願いできますか?」と伝えると、スムーズに対応してもらえることが多いです。予約時や受付のタイミングで、検査内容を事前に確認しておくとより安心です。
また、保険診療の対象になるかどうかは、症状の内容や医師の判断によって異なります。気になる不調があるときは、しっかり伝えるようにしましょう。
まとめと次に読むべき関連記事
血液検査の結果が「正常」と言われたとしても、体の中にたくわえた鉄(フェリチン)が少なくなっていると、すでに貧血の入口に立っているかもしれません。
特に女性は、月経などで日常的に鉄を失っているため、一見元気そうに見えても注意が必要です。
なんとなく感じていた体のサインを見過ごさず、“隠れ貧血”という視点から、自分の健康を見つめ直してみてください。小さな気づきが、大きな変化につながるかもしれません。


