健康志向の高まりとともに、運動を習慣とする人が増えています。しかし、スポーツをしている人ほど貧血のリスクが高いことをご存じでしょうか?
特にアスリートや運動習慣のある方は、一般の人よりも「鉄不足」や「スポーツ貧血」を引き起こしやすいといわれています。
「運動しているのに、なんだか疲れが取れない」「以前よりパフォーマンスが落ちた気がする」
そんなお悩みの背景には、知られざる“スポーツ貧血”が関係しているかもしれません。
この記事では、スポーツ貧血の主な原因を5つの要因に分けてわかりやすく解説し、
予防と対策のポイントも具体的にご紹介します。健康的に運動を続けたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
スポーツ貧血とは?
運動しているのに疲れが抜けない、息切れしやすい、集中力が続かない…
そんなときは「スポーツ貧血」の可能性があります。
スポーツ貧血とは、運動によって体内の鉄バランスが崩れ、赤血球の生成がうまくいかなくなることで起こる貧血のことです。
主な原因には、鉄分の消費・喪失・吸収障害があり、運動がその引き金になることも多くあります。
特に成長期の学生アスリート、持久系競技に取り組む方、女性アスリートに多く見られます。
スポーツ貧血の原因 〜6つの要因〜
1. 鉄の需要増加(鉄分不足)
トレーニングによって筋肉量が増えると、体が必要とする鉄の量も増加します。
これは、筋肉中にある「ミオグロビン(酸素を蓄えるたんぱく質)」や、赤血球中の「ヘモグロビン(酸素を運ぶ成分)」の合成に鉄が欠かせないからです。
たとえば、鹿屋体育大学の研究では、女子アスリートは一般の女子大生に比べて筋肉量が約25%多く、鉄の必要量も高くなると報告されています。
2. 運動性溶血(血管内溶血)
マラソンやサッカーなど、足に強い衝撃が加わるスポーツでは、赤血球が物理的に壊れる「運動性溶血」が起こることがあります。
破壊された赤血球は腎臓を通して処理されますが、鉄の損失や血尿の原因にもなります。
3. 出血・発汗による鉄の喪失
汗、尿、消化管からの微小出血、さらには月経でも、日常的に鉄は体外へ排出されています。
運動量が多いと、その分汗による鉄のロスが増えるため注意が必要です。
1日に約1mgの鉄を失うとされており、運動量が多い人はより注意が必要です。
4. 希釈性貧血
持久系スポーツを行う人では、トレーニングにより血漿(けっしょう=血液中の水分)が増えることで、
赤血球の「濃度」が薄まってしまうことがあります。これが「希釈性貧血」です。
実際には赤血球数が正常でも、ヘモグロビン濃度が低く見えるため、検査で“貧血気味”と判定されることもあります。
5. ヘプシジンの増加による鉄吸収障害
ヘプシジンとは、肝臓で作られるホルモンで、鉄の吸収と放出を調整するホルモンで、激しい運動後に一時的に増加することが知られています。このヘプシジンの増加によって、腸での鉄の吸収が抑えられ、必要な鉄が取り込めなくなるリスクがあるのです。
6. オーバートレーニングとスポーツ貧血の関係
運動は健康に欠かせませんが、「頑張りすぎ」はかえって体に負担をかけてしまいます。
オーバートレーニング(過剰な運動)が続くと、以下のような影響が重なって鉄欠乏につながると考えられています。
- 鉄の吸収を抑えるホルモン「ヘプシジン」の増加
- 筋肉や腸のダメージによる炎症
- 慢性的なエネルギー不足
実際に、スポーツクラブに所属する10代の学生485名を対象にした調査では、
- 貧血の有病率は16.5%
- 男子9.0%、女子23.1%と、特に女性に多く見られました。
さらに、鉄の貯蔵量を示すフェリチン値の低下や、筋肉負荷を示すCK(クレアチニンキナーゼ)の上昇が、貧血のリスク要因となることも明らかになっています。
スポーツ貧血を防ぐには
スポーツ貧血は、日々の意識と対策で予防可能な体調不良です。
とくに成長期の学生、ダイエット中の女性、持久系スポーツを行う方は、以下の対策を習慣にしていきましょう。
鉄分を意識した食事をとる
- 吸収率が高い動物性由来の《ヘム鉄》:赤身の肉、レバー、カツオなど
- ビタミンCで吸収率が上がる、植物性由来の《非ヘム鉄》:ほうれん草、小松菜、大豆製品
鉄分の吸収を妨げない工夫
- タンニンを含む緑茶・紅茶は食後30分以上空けて飲む
- カルシウムと鉄分を同時にとる場合は、量を調整
トレーニングと休養のバランスを保つ
- オーバートレーニングを避け、休養日を意識的に設定
- 運動後は栄養補給と休息で回復を促進する
まとめ
スポーツ貧血は、運動にともなって起こる鉄不足が主な原因です。
その背景には、筋肉量の増加、赤血球の破壊、汗による損失、血漿量の変化、鉄吸収を妨げるホルモンの影響など、さまざまな要因があります。
鉄分の摂取、トレーニングの調整、そしてしっかりした休養――この3つのバランスが、健康的な運動習慣を支えるカギです。
今日の食事と休息を少し見直すことが、明日のパフォーマンスとコンディションにつながります。


運動を楽しみながら、健康的な生活を維持していきましょう!
参考文献
- 「貧血大国日本」山本佳奈著 光文社新書
- 「体育大学生女子スポーツ選手における種目別の骨密度と身体組成についての調査研究」鹿屋体育大学大学院体育学部
- 「運動と発汗」小川徳雄
- 「平成27年国民健康・栄養調査結果の概要」厚生労働省
- 「体育の科学 75巻5月号「オーバートレーニング症候群回避策の最前線」」株式会社杏林書院
- Overtraining and Iron Deficiency in Athletes – PubMed