「朝起きてトイレに行ったら、尿の色がコーラのように濃い…」
そんな異変に気づいたことはありませんか?
それがもし、単なる疲れや水分不足ではなかったとしたら——。
そんな異変に気づいたとき、それはただの疲れや水分不足では済まされないかもしれません。発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は、まれな血液の病気で、進行すると命に関わることもある重大な疾患です。ですが、早期に気づき、適切な治療を受けることで、症状のコントロールや生活の質を保つことが可能です。
この記事では、PNHの特徴的な症状、原因、タイプごとの分類、治療法、そして注目の新薬「エクリズマブ」について、わかりやすく解説します。
PNHについて初めて知る方にも、似た症状に心当たりがある方にも、役立つ情報をまとめましたので、ぜひ最後までご覧ください。
PNHとはどんな病気?
発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria:PNH)は、赤血球が壊れやすくなる「溶血性貧血」の一種です。日本では「発作性夜間血色素尿症」とも呼ばれるこの病気は、再生不良性貧血にも近い特性を持ち、骨髄の異常と関連しています。
この病気では、赤血球の表面にあるタンパク質に異常が生じることで、体の免疫システム(補体系)に誤って攻撃されてしまい、赤血球が壊れてしまいます(=溶血)。
PNHは生まれつきではなく、大人になってから突然発症するのが特徴です。
後天性とは生まれた時は通常ではあったものの、人間生活を送っている途中に事故や環境など様々な事柄を原因として持つこととなってしまった病気や障害の性質。
引用:「Wikipedia」
PNHの症状
代表的な3つの症状
PNHで最も特徴的なのは、朝の尿がコーラのような黒褐色になることです。これは、夜間のあいだに赤血球が壊れ、ヘモグロビンが尿に排出されるために起こります。
また、以下の3つが代表的な症状として知られています。
- 血管内溶血(赤血球が体内で壊れる)
- 骨髄不全(血液をつくる力が低下)
- 血栓症(血管内に血の塊ができる)
その他の症状
PNHには、次のような症状があらわれることもあります。
- 腹痛や飲み込みづらさ(嚥下障害)
- 嚥下障害(食べ物を飲み込みにくい)
- 男性の性機能障害
- 顔色が悪い、息切れ、動悸、倦怠感などの一般的な貧血症状
どれもゆっくり進行することが多いため、初期には見逃されがちです。
原因は赤血球の“誤認識”
PNHは、赤血球の膜にあるタンパク質が後天的に異常をきたすことで、免疫システム(補体)から攻撃されてしまう病気です。
この結果、赤血球が壊れ、ヘモグロビンが血液中や尿中に漏れ出します。これが「溶血」と呼ばれる状態で、PNHの中心的な症状の原因です。
PNHの分類とタイプごとの特徴
PNHには主に3つの病型があり、症状や治療方針にも違いがあります。
1. 血管内溶血型
赤血球が中心に壊れるタイプです。白血球や血小板の異常は少ないものの、溶血が進むと免疫低下や出血しやすさも見られることがあります。
2. 骨髄不全型
骨髄での血液の生産がうまくいかなくなり、すべての血球(赤血球・白血球・血小板)が減少します。再生不良性貧血との合併が多く、「再生不良性貧血PNH症候群」として扱われることもあります。
3. 血栓症型
体内の血管に血栓(血のかたまり)ができやすくなるタイプです。特に手術や出産など、体に負担がかかったときに発症しやすいといわれています。
PNHの治療法について
根本治療:造血幹細胞移植
PNHの根本的な治療法としては、「造血幹細胞移植」があります。これは骨髄の造血能力を回復させる治療であり、通常は化学療法や免疫抑制療法では効果が見込めない重症例に行われます。
ただし、明確な適応基準がないため、以下のような症状に応じて対症療法が選択されることもあります。
- 急激な貧血進行に対する赤血球輸血
- 溶血発作への対応
進化する治療:新薬エクリズマブ
最近では、「エクリズマブ(商品名:ソリリス)」という新しい薬が登場し、PNH治療に大きな進展がありました。この薬は、赤血球が壊れるのを防ぐことで、貧血症状の軽減や生活の質の向上が期待できます。
ただし、エクリズマブは病気を治す薬ではなく、症状を抑える薬のため、継続的な点滴治療が必要です。
また、免疫の一部を抑える作用があるため、治療中は感染症に対する注意も求められます。
尿の色が教えてくれる体のSOS
朝の尿が濃い茶色や赤黒い色になっている場合、それは体からの大切なサインかもしれません。
PNHはまれな病気ではありますが、見逃されがちな症状から始まります。特に「朝の尿の色」「倦怠感や動悸」「腹痛や息切れ」などが続くときは、早めに内科や血液内科を受診してみてください。
参考文献
- 日本内科学会雑誌 第100巻 第7号・平成23年7月10日
- 『貧血と血液の病気』浦部晶夫著(インターメディカ)
- シー・アール・シー『溶血の影響を受ける検査項目』
- 国立がん研究センター『造血幹細胞移植とは』


