「玄米は体にいい」と聞く一方で、「食べすぎると貧血になるかも」と心配になったことはありませんか?
その背景には、玄米に含まれる「フィチン酸」や「フィチン酸塩」に関する情報が影響しています。「鉄分などのミネラルが体外に排出されるから、貧血になるのでは」といった説もありますよね。
でも実は、フィチン酸の働きについては、誤解されている部分が多いんです。
この記事では、玄米に含まれるフィチン酸(より正確にはフィチン酸塩)の特徴と、鉄分との関係について、最新の情報をもとにわかりやすく解説します。安心して玄米を取り入れられるようになるためのヒントを、一緒に見ていきましょう。
フィチン酸を多く含む食べものとは?
玄米には、食物繊維やビタミン、ミネラルなどに加えて、「フィチン酸塩」と呼ばれる成分がたっぷり含まれています。
このフィチン酸塩は、「ミネラルと結びついて体外に出てしまうので、鉄分不足になる」といわれていたこともあります。でも、その仕組みを見てみると、少し違うようです。
玄米などの穀類や豆類に含まれているのは「フィチン酸」ではない?
実は、玄米に含まれているのは「フィチン酸」ではなく「フィチン酸塩」です。
この2つは似ているようで違うもので、英語では「Phytic acid(フィチン酸)」と「Phytate(フィチン酸塩)」と別の名前がついています。でも日本では、これらがごちゃまぜにされてしまい、必要以上に不安に感じられてきました。
引用:「女性の9割が鉄マグ欠乏症」後藤日出夫著(健康ジャーナル社)
フィチン酸とフィチン酸塩のちがい
フィチン酸は、「イノシトール-6-リン酸」という物質で、ミネラルとくっつきやすい性質を持っています。
植物は育つために、鉄やマグネシウムなどのミネラルを必要とします。そこで、フィチン酸がそれらのミネラルを包み込んだ形が「フィチン酸塩」です。
食品中で自然に存在しているのは「フィチン酸塩」であり、私たちが摂取するのもこの形です。
必要なミネラルはきちんと吸収できる
フィチン酸塩はすでにミネラルとくっついた状態なので、体に入ってすぐに鉄分などと結びつくわけではありません。
一部は体内で変化して、フィチン酸に近い形になることがありますが、そのときに不要なミネラルや重金属と結びついて、体の外に出されると考えられています。
つまり、大切な鉄分を奪うというよりは、余分なものを外に出すお手伝いをしてくれているんですね。
必要なミネラルは奪わない!!
体の中でフィチン酸塩が変化するときには、必要な鉄やマグネシウムなどのミネラルは、すでに吸収されたあと。ですので、体に必要な栄養まで排出されてしまう心配はありません。
体内のミネラルが減らない理由
ここまでの流れを、もう一度整理してみましょう。
- フィチン酸塩(ミネラルと結合した状態)が体内に入る
- 一部のミネラルは体内に吸収される
- 残ったフィチン酸塩が変化し、フィチン酸に近い状態になる
- 体に不要なミネラルなどとくっついて、体外へ排出される
このように、フィチン酸塩はむしろ体のバランスを整える「調整役」として働いているともいえるのです。
たとえば、大川順正博士の臨床研究では、2年間米ぬか(フィチン酸塩を多く含む)を摂り続けた人たちの血中ミネラルに、特に大きな変化は見られなかったそうです。
引用:「天然抗ガン物質IP6の驚異」アブルカラム・M. シャムスディン著(ブルーバックス)
さいごに
「フィチン酸が鉄分を奪ってしまうから、玄米は体に悪い」という話は、正確な科学的根拠があるわけではありません。
私たちが食べている玄米に含まれているのは「フィチン酸塩」であり、鉄分の吸収を大きく妨げるものではないと考えられています。
玄米や豆類など、栄養たっぷりの食材をうまく取り入れて、毎日の食事をもっと楽しみましょう。


参考文献・参考サイト
- 「女性の9割が鉄マグ欠乏症」後藤日出夫著 健康ジャーナル社
- 「天然抗ガン物質IP6の驚異」アブルカラム・M. シャムスディン著 ブルーバックス
- 日本食品分析センター「No.78 Aug.2008 フィチン酸について」