「せっかく鉄分を摂っても、お茶と一緒に飲んだら意味がないのでは……」と心配して、お茶を控えるようになった方もいらっしゃるのではないでしょうか。特に、貧血が気になる方や健康を意識している女性にとっては、気になる話題ですよね。
ところが近年の研究では、「お茶に含まれるタンニンが鉄分の吸収を妨げる」という従来の考え方が、必ずしも正しくないことがわかってきました。
この記事では、お茶と鉄分吸収の関係、タンニンの性質、そして最新研究から見えてきた“本当のところ”をやさしく解説します。読み終える頃には、お茶の見方が少し変わっているかもしれません。
昔の常識は正しかった?お茶が鉄分吸収を妨げると言われた背景
「お茶=鉄の吸収を妨げる」とされていた理由
緑茶や紅茶を食事と一緒に飲むと、鉄の吸収が悪くなるという説は、長年信じられてきました。これは、お茶に含まれる「タンニン」という成分が鉄と結びつき、体内への吸収を妨げると考えられていたからです。
タンニンが含まれる飲み物・食品の代表例
では、具体的にどのような飲み物や食品にタンニンが含まれているのでしょうか?
タンニンは、お茶のほかにも赤ワインやコーヒー、柿など、渋みのある食品や飲み物に含まれています。私たちが感じるその渋みこそが、タンニンが存在しているサインなのです。
タンニンの働きとは?鉄との結合で吸収が落ちる仕組みを解説
タンニンが鉄と結びつくメカニズム
タンニンには、たんぱく質や金属イオン、特に鉄と強く結合する性質を持っています。
このため、鉄と結びつくことで水に溶けにくい化合物を形成し、結果的に鉄が体内で吸収されにくくなります。
実際、Disler PBらの研究(Gut. 1975;16(3):193–200)では、一杯の紅茶を食事と一緒に摂取した場合、非ヘム鉄の吸収率が約3分の1にまで低下したことが示されています。
紅茶に含まれるタンニン(ポリフェノール類)が鉄と結合し、難溶性の錯体を形成することが原因とされています。
ただし、これはすべての条件下に当てはまるわけではなく、鉄の吸収にはさまざまな要因が関与しています。
たとえば、Hurrell RFによる総説(J Nutr. 2003;133(9):2973S–2977S)では、植物性食品に含まれるフィチン酸やポリフェノールなどが鉄の吸収を妨げる主要因とされています。
実はもう誤解?「お茶=貧血に悪い」は今では否定されている
最新研究が示す、お茶と鉄剤吸収の意外な関係
近年の研究では、鉄剤を水で服用した場合と、お茶で服用した場合とで、吸収率にほとんど差がなかったという報告もあります。
これは、体が鉄分不足の状態にあると、腸での鉄吸収を高めるメカニズムが働くためだとされています。
なお、Gleasonらによるメタアナリシス(Am J Clin Nutr. 2009;89(1):418–422)では、カルシウムも鉄の吸収を軽度から中等度に抑制することが示されており、食事全体の栄養バランスも重要です。
つまり、タンニンの影響があったとしても、体はそれをある程度補ってくれるのです。
鉄分不足のとき、体はどう対応するのか?
体が自然に鉄の吸収を高める仕組み
鉄分が不足していると、腸では鉄の吸収を促す因子が活性化します。その結果、普段よりも効率よく鉄を吸収できるようになります。
このように、タンニンの影響も体の調整機能によって相対的に小さくなるのです。

まとめ:お茶を楽しみながら鉄も摂るには?
- お茶に含まれるタンニンは、確かに鉄の吸収を妨げる性質がある
- しかし、鉄不足時には体が吸収を高める仕組みを備えている
- 現在では「お茶=鉄に悪い」は見直されつつある
つまり、お茶を楽しむことと鉄をしっかり摂ることは、両立できるのです。食事のバランスやタイミングを見直しながら、自分に合ったスタイルを見つけていきましょう。
鉄分の上手な摂り方や貧血対策については、以下の記事もぜひご参考ください。


参考文献
- 「貧血大国・日本 放置されてきた国民病の原因と対策」 山本佳奈著 光文社新書
- Disler PB et al. Gut. 1975;16(3):193–200.
- Hurrell RF. J Nutr. 2003;133(9):2973S–2977S.
- Gleason et al. Am J Clin Nutr. 2009;89(1):418–422.