子供の成長期には多くの栄養素が必要とされますが、その中でも鉄は、身体の発育や神経機能の維持に重要な役割を果たす栄養素の一つです。
小学生頃から始まる成長期は、身長や体重が伸びるだけでなく、精神面や神経系の発達も進む大切な時期です。この時期に鉄分が不足すると、立ちくらみや疲れやすさといった症状だけでなく、イライラしやすい、集中力が続かないといった変化がみられることがあります。
そのため、子供の食生活や体調の変化を正しく理解し、必要に応じて医療機関で評価を受けることは、健やかな成長を支えるうえで重要です。
本記事では、小学生以降の成長期にある子供を持つ保護者の方に向けて、鉄分不足が関与する可能性のある症状やその背景、そして日常生活で意識したい食事の考え方について、医学的な視点から解説します。お子様の健康維持の参考としてご活用ください。
成長期には体の発達に伴い鉄分の必要量が増える

生まれたばかりの赤ちゃんの身長は約50cmほどですが、1年後には70~80cmに成長し、4歳頃には出生時の2倍に達します。この乳幼児期は、身長や体重が急速に増える「第一次成長期」と呼ばれ、血液量や赤血球量も大きく増加する時期です。
鉄は、赤血球中のヘモグロビンを構成する重要な成分であり、成長に伴って血液量が増えるほど、体内で必要とされる鉄の量も増加します。特に、生後6か月以降は体内に蓄えられていた鉄が減少しやすくなるため、食事からの鉄分補給が重要になる時期とされています。乳幼児期の鉄不足が、長期的な神経発達に影響を及ぼす可能性があることも報告されています。
その後、成長のスピードはいったん緩やかになりますが、学童期から思春期にかけて再び身長が大きく伸びる「第二次成長期」を迎えます。この時期には、身体的な成長に加えて、神経系やホルモンバランスの変化も進み、発育に必要な栄養素の需要が再び高まります。
「第二次成長期」の開始時期には個人差がありますが、一般的に女の子が早く、7〜10歳頃から始まることが多くみられます。一方、男の子では9〜12歳頃が目安とされています。このような成長の節目では、鉄分を含む栄養バランスのとれた食事が、健やかな発育を支えるうえで重要となります。
子供の貧血の原因として最も一般的なのは「鉄欠乏性貧血」

子供の貧血の原因の中で、最も多くみられるのが「鉄欠乏性貧血」です。これは、体内の鉄が不足することでヘモグロビンの合成が十分に行えなくなり、赤血球の酸素運搬能力が低下する状態を指します。この点は、子供に限らず、大人にも共通しています。
鉄は体内で合成することができないため、日々の食事から摂取する必要があります。一方で、鉄は吸収率が低い栄養素の一つであり、必要量を安定して補うことが難しいという特徴があります。特に成長期の子供では、血液量や赤血球量の増加に伴って鉄の必要量が増加するため、摂取量が不足すると鉄欠乏に陥りやすくなります。
鉄の不足が進行すると、まず体内の貯蔵鉄が減少し、その状態が続くことで鉄欠乏性貧血へと移行します。ただし、すべての貧血が鉄分不足によるものとは限らないため、貧血が疑われる場合には、原因を確認するための適切な検査と評価が重要です。
成長期の子供では、発育に伴い鉄の必要量が増加する

成長期には身長や体重の増加に伴い、体内を循環する血液量や赤血球量、筋肉量も徐々に増えていきます。これらの変化により、体内で必要とされる鉄の量も増加します。
鉄は、赤血球中のヘモグロビンの構成成分として全身に酸素を運ぶ役割を担っています。また、筋肉に存在するミオグロビンにも鉄が含まれており、運動時などに備えて酸素を蓄える働きがあります。そのため、成長に伴って赤血球量や筋肉量が増えると、ヘモグロビンやミオグロビンの合成に必要な鉄の需要も高まります。
特に学童期から思春期にかけては、成長のスピードに個人差はあるものの、鉄の必要量が増えやすい時期です。この時期に食事からの鉄分摂取が十分でない状態が続くと、まず体内の貯蔵鉄が減少し、その後に鉄欠乏性貧血へと進行する可能性があります。
そのため、成長期には鉄を含む栄養バランスのとれた食事を継続的に心がけることが重要です。
【年齢別】成長期に必要とされる鉄分量(目安)
ヘモグロビンの合成に欠かせない栄養素である鉄は、性別や年齢、月経の有無によって必要量が異なります。厚生労働省が示す「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、成長や月経の影響を考慮し、年齢や性別ごとに必要量の目安が示されています。成長期は体の発達に伴って鉄の必要量が増えるため、日常の食事内容に注意が必要な時期といえます。
6~7歳
- 男の子:6.0mg/日
- 女の子:6.0mg/日
8~9歳
- 男の子:7.5mg/日
- 女の子:8.0mg/日
10~11歳
- 男の子:9.5mg/日
- 女の子:月経なし:9.0mg/日 月経あり:12.5mg/日
12~14歳
- 男の子:9.0mg/日
- 女の子:月経なし:8.0mg/日 月経あり:12.5mg/日
引用:「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
鉄は吸収率が低い栄養素であるため、これらの値はあくまで目安として、基本的には日々の食事から無理なく摂取することが重要です。実際の必要量には年齢や成長の程度、体調などによる個人差があります。貧血が疑われる場合や、食事だけでの補給が難しい場合には、自己判断でサプリメントを使用するのではなく、医療機関で評価を受けたうえで適切な対応を行いましょう。
子供の鉄分不足は食事からの摂取が十分でないことが一因となる
子供の鉄分不足は、成長に伴って増加する鉄の必要量に対して、食事からの摂取が十分に追いついていないことが一因となる場合があります。特に成長期には、血液量や赤血球量の増加により鉄の需要が高まるため、日常の食事内容によっては不足が生じやすくなります。
鉄分が不足しやすくなる背景には、さまざまな生活習慣や食事の傾向が関係しています。代表的な要因として、次のような点が挙げられます。
- 朝食を抜く、または簡単に済ませてしまう
- 偏食によって栄養バランスが偏る
- 加工食品やインスタント食品の摂取が多い
- 成長期にもかかわらず、体型を気にした食事制限を行っている
これらは、必ずしも意図的なものではなく、生活環境や忙しさなどから生じることも少なくありません。それぞれの原因について、次の項目で詳しく解説します。
朝食を抜くことで鉄分を含む栄養摂取が不足しやすくなる

独立行政法人日本スポーツ振興センターが行った「児童生徒の食生活等実態調査」では、朝食を食べない小学生が増加傾向にあることが報告されています。
成長期の子供にとって、1日に必要な栄養素を昼食と夕食だけで十分に補うのは容易ではありません。朝食を抜く、あるいは簡単に済ませる習慣が続くと、全体の栄養バランスが偏りやすくなり、鉄分をはじめとした必要な栄養素の摂取量が不足しやすくなります。
朝は時間に余裕がなく、十分な食事をとることが難しい場合もありますが、成長期の貧血予防の観点からは、1日を通した食事の中で鉄分を意識することが大切です。無理のない範囲で、朝食を含めた食事内容を見直していくことが、鉄分不足の予防につながります。
(参考文献:『貧血大国・日本 放置されてきた国民病の原因と対策』光文社新書)
インスタント食品やスナック菓子に偏った食事は鉄分不足を招きやすい

インスタント食品やスナック菓子を頻繁に摂取する食生活が続くと、鉄分不足を招きやすくなることがあります。これらの食品自体が直ちに貧血の原因となるわけではありませんが、食事の内容が偏ることで、必要な栄養素の摂取量が不足しやすくなる点には注意が必要です。
加工食品には、保存性や食感を保つ目的でリン酸塩が使用されることがあります。リン酸塩は過剰に摂取された場合、鉄をはじめとする一部のミネラルの吸収を妨げる可能性が指摘されています。ただし、通常の摂取量で直ちに健康被害が生じるものではなく、問題となるのは特定の食品に偏った食事が長期間続く場合です。
また、カップ麺などの単品で食事を済ませる習慣が続くと、鉄分だけでなく、たんぱく質やビタミン、食物繊維なども不足しやすくなります。成長期の子供では、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を基本とし、加工食品はあくまで補助的に取り入れることが望ましいといえるでしょう。
成長期における食事制限は鉄分不足のリスクを高める

成長期にもかかわらず、体型を気にして食事量を減らしている場合、体に必要な栄養素全体が不足しやすくなります。その結果、鉄分の摂取量が十分に確保できず、鉄欠乏を招くリスクが高まることがあります。
特に学童期から思春期にかけては、成長に伴って鉄の必要量が増える時期です。女の子では小学校高学年以降に月経が始まることもあり、月経による鉄の喪失が加わることで、鉄分不足が生じやすくなります。このような時期に食事制限が重なると、鉄欠乏性貧血へと進行する可能性があるため注意が必要です。
体型や食事量について気になる場合でも、成長期には無理な制限を行うのではなく、必要な栄養素を確保したうえでの食生活を心がけることが重要です。
子供の貧血では、症状の現れ方にいくつかの特徴がある
子供の貧血の多くは鉄分不足に関連していますが、症状の現れ方にはいくつかの側面があります。理解しやすくするために、大きく分けて考えると、酸素運搬能力の低下に伴う症状と、鉄欠乏が神経機能に関与することでみられる症状の2つの側面があります。
一つは、ヘモグロビンが低下することで全身への酸素供給が十分に行われなくなり、疲れやすさや息切れなどの症状が現れるケースです。もう一つは、鉄欠乏が続くことで、脳や神経の働きに影響を及ぼし、集中力の低下やイライラといった変化がみられる場合があります。
これらの症状は、実際には明確に区別できるものではなく、重なって現れることも少なくありません。そのため、子供の体調や行動の変化を総合的に捉えることが大切です。
酸素運搬能力の低下により、さまざまな身体症状が現れることがある

貧血とは、血液中のヘモグロビン量が低下した状態を指します。ヘモグロビンは、全身に酸素を運ぶ役割を担っているため、その量が少なくなると、組織への酸素供給が十分に行われにくくなります。
このような酸素運搬能力の低下により、次のような症状がみられることがあります。
酸素供給の低下に関連してみられる主な症状
- 顔色が悪く見える
- めまい
- 息切れ
- 動悸
- 疲れやすい
- 体力(持久力)の低下
場合によっては、まぶたの裏が白く見える、爪の形に変化がみられるといった所見がみられることもありますが、これらは必ずしもすべての子供に現れるものではありません。
朝起きても疲労感が残る、少し動いただけで息切れしやすいといった状態が続く場合には、成長や生活習慣の影響だけでなく、貧血を含めた体調の変化が関係している可能性もあります。気になる症状が続く場合は、医療機関での評価を検討することが大切です。
鉄分不足は、精神面や行動の変化に関与する可能性がある

鉄は、発育期の脳や神経の働きを支える重要な栄養素の一つです。成長期に鉄が不足すると、神経機能に関わる生理的な仕組みに影響を及ぼし、行動や精神面に変化がみられることがあります。
鉄は、ドーパミンやノルアドレナリン、セロトニンといった神経伝達物質の働きに関与していると考えられており、不足が続くことで、感情のコントロールや集中力、睡眠などに影響が出る可能性が指摘されています。発育期の子供では、こうした影響が学習面や日常生活の様子として現れることもあります。
鉄欠乏が続いた小児において、易刺激性の亢進や注意力の低下、集中力の持続が難しくなるといった神経・行動面の変化がみられる可能性が指摘されています(四国医誌 68巻1・2号)
ただし、イライラや集中力の低下といった変化は、鉄分不足だけで起こるものではありません。生活習慣や睡眠、発達特性、心理的要因など、さまざまな要因が関与するため、これらの様子が続く場合には、性格の問題と決めつけるのではなく、体調や生活環境を含めて総合的に捉えることが大切です。
子供の貧血では、鉄分の吸収を意識した食事が重要となる

子供の貧血は、鉄分不足が関与していることが多いため、予防や改善を考える際には、日々の食事内容を見直すことが重要なポイントの一つとなります。
ただし鉄は吸収率が低い栄養素であるため、単に鉄を多く含む食品を摂るだけでは十分とは限りません。吸収率の高い「ヘム鉄」を含む食材を取り入れたり、ビタミンCを含む食品と組み合わせたりするなど、吸収を意識した工夫が役立ちます。
子供の成長期における鉄分摂取の考え方や、日常の食事に取り入れやすい工夫については、以下の記事で詳しく紹介しています。食生活を見直す際の参考としてご活用ください。
さいごに

子供の貧血は、症状がはっきりと現れにくく、子供自身で「体の不調」と自覚し、言葉で伝えることが難しい場合も少なくありません。
本人に明確な自覚症状がなくても、「最近イライラしやすくなった」「勉強への集中力が続かなくなった」といった変化がみられることがあります。こうした様子がみられた場合には、性格や反抗期の影響と決めつけるのではなく、生活習慣や体調の変化、栄養状態などを含めて、総合的に捉える視点が大切です。
本記事の内容が、日々の食生活や体調の変化を見直すきっかけとなり、成長期にあるお子様の健やかな発育を支える一助となれば幸いです。
参考文献
- 厚生労働省.日本人の食事摂取基準(2025年版)
- 山本佳奈.貧血大国・日本 放置されてきた国民病の原因と対策.光文社新書
- 四国医学会.四国医学会雑誌(四国医誌).68巻1・2号
- 子供の貧血. ドクターサロン.57巻4月号
監修:山本佳奈医師
子供の貧血は、本人が不調を自覚しにくく、周囲も気づきにくいことが少なくありません。成長期の体調や行動の変化を、性格や年齢のせいと決めつけず、栄養状態や生活習慣の視点からそっと見直してみることが大切です。
日々の食事や過ごし方を振り返る、ひとつのきっかけとして本記事がお役に立てば幸いです。少しでも気になることがあれば、無理をせず医療機関に相談してみてくださいね。


