「最近、なんだか疲れやすい」「立ちくらみが増えた気がする」――そんな体調の変化を感じたことはありませんか?その原因は、体内の酸素を運ぶヘモグロビンが減少する「鉄欠乏性貧血」かもしれません。
特に女性は、鉄欠乏性貧血になりやすいといわれています。
この記事を読むことで、鉄欠乏性貧血が起こる具体的なメカニズム、見逃してはいけない体からのサイン、そして適切に改善するための治療・予防が分かります。特に女性は月経や妊娠により鉄分を失いやすいため、自身の数値や症状と照らし合わせながら、理想の体調を取り戻すためのヒントとしてお読みください。
鉄欠乏性貧血の正体はヘモグロビン不足による酸素欠乏

私たちの体は、エネルギーを生み出すために酸素を必要としています。
その酸素を運ぶ役割を担うのが、赤血球の中にある鉄とたんぱく質から作られている「ヘモグロビン」です。
体内に蓄えられている鉄が不足すると、ヘモグロビンを十分に作ることができなくなり、結果としてヘモグロビンの量が減少して、体に酸素が行き渡りにくい状態(鉄欠乏性貧血)になります。
鉄欠乏性貧血が起こる最大の原因は鉄分の摂取不足と流失

鉄欠乏性貧血の大きな原因は、体に取り込まれる鉄分が不足すること。
その背景として、以下2つが主な要因となります。
①食事からの鉄摂取量が足りないこと
②出血によって鉄が失われ続けること
鉄分不足が起こる主な5つの原因
生理による出血(月経過多)
月経による出血が多いと、体外へ排出される鉄分も増加します。通常、生理の出血量は20〜140mlとされていますが、実際に量を正確に測ることは難しいため、
・レバー状の血の塊が頻繁に出る
・ナプキンやタンポンを1〜2時間ごとに替えないと持たない
・夜間も何度も交換が必要になる
といった症状がある場合は、月経過多が疑われるため医療機関の受診をおすすめします。
気づかないうちの出血(消化管出血)
痔や胃のポリープ、大腸の病気などで少しずつ出血が続くと、気づかないうちに鉄分を失うことがあります。特に男性や閉経後の女性で鉄欠乏性貧血が見つかった場合は、消化管からの出血や病気が原因となっている可能性が高く、食事不足だけで片付けず、必ず医療機関で検査(胃カメラ・大腸カメラなど)を受けることが重要です。
成長期・授乳期における鉄需要の増大
成長期や授乳期には、体の成長や母乳を作るために、通常より多くの鉄が必要になります。
特に、思春期の子どもや月経のある女性、産後の授乳中の方では鉄不足になりやすく、この時期に十分な鉄分を摂取できないと、比較的短期間でも鉄欠乏に陥ることがあります。
胃の手術後による吸収ダウン
胃の手術を受けると胃酸の分泌が減少し、食品に含まれる鉄を吸収しやすい形に変える働きが弱くなります。 特に胃切除や胃を小さくする減量手術(バイパス手術など)では、鉄の吸収が大きく低下しやすく、十分に食事を摂っていても体内に鉄が取り込まれにくくなることがあります。そのため、手術後は定期的な血液検査と、必要に応じた鉄補充が重要になります。
無理なダイエットによる栄養不足
過度な食事制限や特定の食品のみを食べるダイエットは、鉄分の摂取量を著しく低下させます。 特に、月経のある女性や若年層の方では、日常の出血により鉄が失われやすいため、短期間でも貧血に進行しやすい傾向があります。慢性的なエネルギー不足と重なると鉄欠乏がさらに深刻化し、めまい・動悸・集中力低下などの症状につながることがあります。
最新:1日に必要な鉄分の量は?(食事摂取基準2025年版)

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」によると、鉄分の推奨量は性別や年齢、月経の有無によって大きく異なります。自分に必要な量はどれくらいなのか、それぞれのライフスタイルに合わせた目安量を確認してみましょう。
【成人女性】18歳〜64歳の推奨量
月経がある女性は、毎月の出血により鉄分が失われるため、月経がない女性や男性よりも多くの鉄分を摂取する必要があります。
- 月経ありの場合: 10.0~10.5 mg/日
- 月経なしの場合: 6.0 mg/日
医師のポイント 多くの女性(特に月経がある方)が、この「1日10.5mg」という推奨量に達していないのが現状です。 月経期間中は特に鉄分が不足しがちになるため、赤身の肉や魚、小松菜など、鉄分豊富な食材を意識的に「プラス一品」取り入れることが大切です。
【妊娠中・授乳中】通常時の食事に「プラス」すべき量
妊娠中や授乳期は、赤ちゃんへの栄養供給や母乳を作るために、普段よりも多くの鉄分が必要です。 妊娠によって月経は止まりますが、それ以上に鉄の需要が増えるため、月経なしの推奨量(6.0mg)に、以下の量を上乗せして摂取する必要があります。
- 妊娠初期: +2.5 mg/日
- 妊娠中期・後期: +8.5 mg/日
- 授乳期: +2.0 mg/日
*特に妊娠中期以降は、胎児の成長に伴い血液量が急増するため、意識的な鉄分摂取が不可欠です。
【子供】乳幼児・成長期の推奨量
体が急激に大きくなる成長期も、血液量や筋肉量が増えるため、多くの鉄分を必要とします。特に思春期の女子は月経も始まるため、大人以上の鉄分が必要になる場合があります。
- 乳児(6〜11ヶ月): 4.5 mg/日(目安量)
- 1〜2歳: 4.0 mg/日
- 12〜14歳女性(月経なし): 8.0 mg/日
- 12〜14歳女性(月経あり): 12.5 mg/日
- 12〜14歳男性: 9.0 mg/日
*成長期は性別や成長度合いによって必要量が大きく変動します。
【成人男性】基本的な推奨量
成人男性や閉経後の女性は、成長期や月経時ほど多くの鉄分を必要としませんが、日々の健康維持には欠かせません。
- 成人男性(18〜74歳): 7.0~7.5 mg/日
*鉄の推奨量は年齢、性別、月経の有無によって異なります。本表は「日本人の食事摂取基準(2025年版)」に基づいています。
疲れやすさや立ちくらみは体からの「SOS」

酸素が足りなくなると、体はいろいろなサインを出します。 以下のような症状があれば、鉄欠乏や鉄欠乏性貧血が進んでいる可能性があります。
・顔色が悪い
・めまい、立ちくらみ
・動悸、息切れ
・頭痛
・疲れやすい、集中力が低下する
・爪が割れやすくなる、スプーン状に反る
・氷をガリガリ食べたくなる(氷食症:鉄欠乏で比較的特徴的に見られる症状)
これらは、体が発している酸素不足や鉄不足のSOSサインです。
症状を放置せず、続く場合は早めに医療機関で相談することが大切です。
女性は月経と妊娠により鉄分不足のリスクが最も高い

男性に比べて女性は、月経や妊娠・出産によって、鉄を失いやすい体質です。
特に妊娠中は、胎児の成長や母体の血液量増加のため、通常よりも大幅に鉄の必要量が増加し、体全体として約1,000mg程度の追加鉄が必要になると言われています。そのため、妊娠中は意識的に鉄を補うことが大切です。
貯蔵鉄が底をつくと貧血症状が表面化する

私たちの体内には「貯蔵鉄」と呼ばれる鉄のストックがあり、肝臓などに蓄えられています。
鉄の出入りバランスが崩れると、まずこの貯蔵鉄(フェリチン)が少しずつ減少し、さらに不足が進むとヘモグロビンが低下して、鉄欠乏性貧血として症状が現れるようになります。このため、フェリチン検査は「隠れた鉄不足」を見つける重要な指標になります。
貯蔵鉄の量
- 男性 1000mg
- 女性 300mg
引用:「貧血と血液の病気」浦部晶夫著 インターメディカ
*鉄の貯蔵量は、性別や年齢によって差がありますが、一般的な成人では 男性でおよそ1000mg程度、女性でおよそ300mg程度 が一つの目安とされています。これはフェリチン値(貯蔵鉄の指標)に基づく“代表的な平均値”であり、個人差が大きいことに留意が必要です。
鉄欠乏性貧血の治療は鉄剤の服用が基本

原則は鉄剤を服用すること
鉄欠乏性貧血の治療は、鉄剤(内服薬または注射薬)の使用が基本です。
ヘモグロビン値が正常に戻っても、体内の貯蔵鉄を回復させるために、通常はさらに2〜3か月程度、鉄剤の内服を続けることが推奨されています。自己判断で中止せず、医師と相談しながら治療を続けることが大切です。
また、ビタミンCと一緒に摂取すると、鉄の吸収がさらに高まります。
鉄剤の副作用と注意点
・便が黒くなる
・軽い吐き気や胃もたれ
・便秘
これらの副作用は数日で慣れることが多いですが、改善しない場合は医師に相談しましょう。
鉄剤の種類を変更したり、内服量やタイミングを調整したり、胃薬を併用することで症状が和らぐこともあります。
まれにアレルギー反応や消化管障害が起こることもあるため、強い腹痛や吐き気、じんましんなど、体調に明らかな変化を感じた場合は早めに受診してください。
鉄不足の予防・改善には動物性ヘム鉄の摂取が有効

鉄欠乏性貧血の原因対策として推奨される鉄分豊富な食事メニュー
治療後は、食事を通じた鉄分管理がとても重要です。
鉄には「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」があり、動物性食品に含まれるヘム鉄の方が吸収率が高いとされています。普段の食事に赤身の肉や魚を取り入れることで、効率よく鉄を補うことができます。
ただし、明らかな鉄欠乏性貧血がある場合は、食事だけでは十分に改善しないことが多く、治療の基本は鉄剤の服用となります。食事はあくまで再発予防や維持のためのサポートとして考えることが大切です。
鉄不足サイン自己チェックリスト

以下の症状のうち2つ以上当てはまる場合は、鉄不足の可能性があります。
・立ちくらみやめまいが多い
・朝起きても疲労感が取れない、だるい状態が続く
・爪が割れやすい、またはスプーン状に変形している
・氷をガリガリ食べたくなる(氷食症:鉄欠乏で比較的特徴的に見られる症状)
・動悸や息切れがする
・顔色が悪いと言われる
・舌や口の中が荒れやすい、ヒリヒリする
ヘモグロビンが正常でも、フェリチン(貯蔵鉄)が低下している「隠れ鉄欠乏」のことがあります。気になる方は、血液検査(フェリチン測定)を受けることをおすすめします。
まとめ:鉄分不足に気づいたら放置せず早期対策を

鉄欠乏性貧血は、特に女性にとって身近ながら、放置すると日常生活の質を著しく低下させる問題です。 見た目のヘモグロビン値が正常でも、貯蔵鉄(フェリチン)が低下している「隠れ貧血」が進んでいることもあります。
知らないうちに進行させないためにも、日々の食事改善に加え、症状がある場合や不安がある場合には、早めに医療機関で相談することをおすすめします。鉄のバランスを整えることが、活力ある毎日を取り戻す第一歩です。
監修:山本佳奈医師
コメント:
鉄欠乏性貧血は「よくあること」と軽く見られがちですが、日常生活の質を大きく下げるだけでなく、背景に消化管出血など、早期発見が重要な病気が隠れていることもあります。しかし、原因をきちんと確認し、適切に対応することで改善が期待できる状態でもあります。
「忙しいから」「まだ大丈夫」と無理をしてしまう方も少なくありませんが、疲れやめまいなどのサインが続くときは、一人で抱え込まず、早めに医療機関で相談してみてください。自分の体を大切にするその一歩が、これからの毎日を安心して過ごすための力になります。


