「体が重くて思うように動かない」「最近、運動中にすぐ息が切れる」 もし運動習慣のある方や、成長期のお子さんがそんな不調を感じている場合、それは運動不足ではなく「スポーツ貧血」かもしれません。
健康のために運動をしているはずが、トレーニングの内容や体の状態によっては、鉄分不足が進行し、貧血を招いてしまうケースは少なくありません。本記事では、運動が貧血につながる仕組みをわかりやすく解説するとともに、鉄剤注射の考え方や、スタミナ切れを防ぐための食事の工夫について紹介します。
激しい運動が貧血を招く?意外な5つの原因

「スポーツ貧血」とは、激しいトレーニングによって体内での鉄分の消費や体外への流出が増え、必要量の供給が追いつかなくなる状態です。 これには特定の病気ではなく、運動量の多いアスリートにみられやすい、体の生理的な変化が関係しています。
1. 筋肉量の増加による「鉄の消費」

スポーツをする人は一般の人に比べて筋肉量が多い傾向があります。筋肉には、酸素を一時的に貯蔵する「ミオグロビン」というタンパク質があり、その合成には鉄が必要です。 筋肉量が増えるほど、体が必要とする鉄分量も増加するため、食事からの摂取が追いつかない場合には、鉄分不足や貧血につながることがあります。
2. 大量の汗による「鉄の流出」

汗には水分だけでなく、微量ながら鉄分を含むミネラルも含まれています。 通常、発汗時には体内のミネラルバランスが大きく崩れないよう調整されていますが、激しい運動によって大量の発汗が続くと、鉄分を含むミネラルが体外へ失われやすくなります。その結果、長期間にわたって運動量が多い状態が続くと、鉄分不足につながることがあります。
3. 足裏への衝撃による「溶血」

マラソンやバスケットボール、剣道など、足裏に強い衝撃が繰り返しかかるスポーツでは、このタイプの貧血が起こりやすいとされています。 着地の衝撃によって血管内の赤血球が物理的に破壊される現象を「溶血」といい、その結果、ヘモグロビンが失われ、体内で利用できる鉄分が減少してしまいます。
4. 運動中の「消化管出血」

持久力を限界まで使うような運動中は、血液が主には筋肉や皮膚へ優先的に送られ、胃腸への血流が一時的に低下します。 その結果、消化管の粘膜がダメージを受けやすくなり、気づかないうちに微量の出血が起こることがあります。このような状態が続くと、鉄分の喪失につながる可能性があります。
5. 炎症による「鉄吸収のブロック」

激しい運動後には、筋肉の修復に伴う炎症反応によって「ヘプシジン」と呼ばれるホルモンが一時的に増加します。 ヘプシジンには、腸からの鉄分や体内での鉄の利用を抑制する働きがあるため、運動後のタイミングによっては、食事で鉄を摂取しても吸収されにくくなることがあります。
貧血対策における鉄剤注射は危険?医師と相談して正しく活用しよう

貧血治療において、「鉄剤注射は副作用が怖い」「体に悪い」というイメージを持つ方もいるかもしれません。 しかし、医師の管理下で適切に行われる場合には、安全かつ有効な治療手段となることがあります。
「治療」として必要な選択肢
まず、鉄剤注射はドーピングなどの不正行為ではありません。 基本は食事や飲み薬(内服薬)による改善を目指しますが、「胃腸が弱く飲み薬で強い吐き気が出る場合」や「試合直前などで医師が医学的に必要と判断した場合」には、鉄剤注射が治療の選択肢となることがあります。
医師による総量管理でリスク回避
鉄剤注射のリスクとして挙げられる「鉄過剰症(体内に鉄が溜まりすぎること)」は、医師が総投与量を厳密に計算・管理することでリスクを最小限に抑えることができます。 現在は必要な鉄量が補われた段階で、速やかに内服薬や食事療法へ切り替える治療フローが一般的です。自己判断は避け、必ず専門医の指導の下で治療することが重要です。
スタミナ切れを防ぐために!「赤い食材」を味方にする食事法

スポーツ貧血を予防し、パフォーマンスを維持するためには、毎日の食事が鍵となります。
アスリートは鉄分の必要量が増えやすい
一般成人では、性別や体の状態によって差はあるものの、1日あたり約10mg前後の鉄分摂取が目安とされていますが、激しいスポーツを行う人では、汗や溶血などによって鉄分の喪失が増えるため、一般より多くの鉄分摂取が必要になることがあります。
肉や魚は「色が赤いもの」を選ぼう
効率よく鉄分を摂るコツは、スーパーで「赤い色の食材」を選ぶことです。 赤身の肉や魚の赤い色は、酸素を運ぶタンパク質(ヘモグロビンやミオグロビン)に由来しており、鉄分を多く含む傾向があります。
- おすすめの魚: マグロ、カツオ(回遊魚は酸素を大量に使うため、鉄分を多く含みます)
- おすすめの肉: 牛もも肉、レバー(豚・鶏・牛)
これらに含まれる「ヘム鉄」は、野菜に含まれる鉄分(非ヘム鉄)よりも吸収率が高く、運動量の多い人にとって効率的な鉄分源です。 日々の食事に「赤い食材」を意識的に取り入れることが、 スタミナ切れを防ぎ、安定したパフォーマンスにつながります。
まとめ:正しい知識と食事で、バテない体を作ろう

運動中の不調は「気合い」や根性だけで解決できるものではなく、体の仕組みによって生じる栄養不足が背景にあることも少なくありません
- 運動量が多い人ほど、鉄分の消費や喪失が増えやすいこと
- 鉄剤注射は、医師の管理下で適切に行われる場合には有効な治療選択肢となること
- 日々の食事で「赤い食材」を意識し、効率よく鉄分を補うこと
こうしたポイントを意識することで、スタミナ切れを防ぎ、運動を長く安全に元気に楽しむことにつながります。正しい知識と日々の工夫で、無理のない体づくりを心がけていきましょう。
執筆・監修:山本佳奈医師
コメント:
運動中の不調は、体力や気合いの問題と捉えられがちですが、実際には鉄分不足をはじめとする栄養の問題が背景にあることも少なくありません。
「最近疲れやすい」「以前より運動がつらそう」といった変化は、成長や体力の問題だけでなく、鉄分不足が影響している場合もあります。特に運動量の多い方や成長期のお子さんでは、知らないうちに鉄分が不足し、パフォーマンス低下や体調不良につながることがあります。
日々の食事や体調の変化に目を向けることが、元気に運動を続けるための大切な土台になります。本記事が、ご自身やお子さんの体調や食事を見直し、必要に応じて医療機関で相談するきっかけになれば幸いです。


